この命をあきらめない
生きる道のあるかぎり
「終末のフール」概要
著者:伊坂幸太郎
8年後に小惑星が地球と衝突して、この世が終わりを迎えると発表されてから、5年後の世界。
発表直後は暴動が起きたり、絶望して自ら死を選ぶ人などが急増したり、世の中が機能しなくなり荒れまくっていた。
しかし、5年経ち少し落ち着きを取り戻している。
嵐の前の静けさというか、小休止のような感じで、仙台にある「ヒルズタウン」という団地に住む人々。
余命3年となった世の中で生きている、8組の家族たちのオムニバス形式の物語。
8組の物語
終末のフール
仲違いしている両親と娘の物語。
ずっと連絡のなかった娘が、ひょっこりと訪れてくる。
太陽のシール
あと3年しか生きられないのに妊娠してしまう。
産むのか産まないのか決断が出来ない。
籠城のビール
家族を酷い目に遭わせたマスコミに復讐を誓う二人。
当時のアナウンサーの家へ復讐を果たすべくやってくるが・・・。
冬眠のガール
両親が亡くなり、一人ぼっちになってしまった女の子。
恋がしたいと思い始める。
鋼鉄のウール
小学生の時に強くなりたくてボクシングジムに通い始めた僕。
しかし、それどころではなくなった。
世の中が落ち着いてきて5年ぶりにジムに来てみると・・・。
天体のヨール
妻を亡くして失意の矢部の元に、同級生の二ノ宮から連絡が来る。
天体オタクの二ノ宮に久しぶりに会う矢部。
演劇のオール
女優になる夢を諦め、東京から戻ってきた私。
騒動の後は家族を失った人たちの家族を演じている。
深海のポール
小惑星が近づいてきたらみんなで登ろうと、団地の屋上で櫓を作り続ける父。
普段通りに過ごす人々
小惑星がぶつかり、この世が終わりますと発表されてから世の中は当然荒れます。
暴力的になる人、他人を殺害してしまう人、自ら死を選ぶ人。
他人の家に押し入り、お店は窓ガラスを割られ、テレビは機能せず、警察はやりたい放題という世紀末状態です。
そして5年後、多くの人が収監されたり亡くなったりして、世の中が少し落ち着きを取り戻した5年後。
そんな中でも普段通り過ごす人がいます。
- 昔の同級生とサッカーをする旦那
- 体を鍛え続けるボクサー
- 天体観測を続ける天体オタク
- レンタルビデオの延長を記録する店長
などです。
パニック状態が普通の中、これら平常どおり過ごす人が一種異様に感じます。
ある意味達観しているとも見えるでしょうか。
この状態になった時に、果たして平常心で日常を過ごせるだろうかと、思わず考えてしまいました。
本当にやりたかったこと
3年後に地球がなくなるという事は、登場人物たちの余命は後3年という事になります。
その3年の中で諦めを感じつつも、本当にやりたかった事に手を出す人もいます。
娘が気になっていた両親は娘と会うし、家族の復讐を果たそうとする人、女優を諦めたはずなのに、なぜか他人の母親や孫や姉を演じている女性。
ラストは日曜大工が好きな父親は櫓まで作ってしまいます。
もしかしたら、余命が少ないのは嫌ですが時間を区切られた方が、人間は本当にやりたいことに向かっていけるのかもしれないですね。
そんなことも考えてしまいました。
結構キツい場面も
温かい部分も描かれていましたが、当然きれいなだけではありません。
キツイなと思う部分もありました。
後3年で世界が終わるのに一生懸命働こうとする人は少ないです。
街ではお店は暴動に遭ったりして、どこも閉まっています。
そんななか猫や犬ですら食用となってしまうようです。
後は子供を置いて死を選ぶ親も・・・。
小説の中では大人が絶望して、子供の方が割と冷静な場面が多かったように思います。
一番冷静だったのは天体のヨールに登場する二ノ宮くんですが・・・。
好きな章は
冬眠のガールと天体のヨールです。
天体のヨールのラストは見解が分かれそうですが、私はきっと月を見てからにしようと、思いとどまるんじゃないかと思っています。
冬眠のガールは両親を亡くした女の子の話なのですが、前向きな女の子で救いがありました。
後3年しかないのに恋がしたい、っていうのが何とも素敵ですね。
どの物語も絶望的なラストというのは無かったです・・・多分。
もし世界が終わるなら
これは読んだ人のほとんどが考えたのではないでしょうか。
当然私も考えました。
恐らく最初の頃は様子を見ながら一応仕事をする。
しかし、世の中が狂暴になって行き仕事どころじゃなくなってくる。
仕事を辞めて引きこもり。
小説の中では近所の小さなスーパーが辛うじて開店している状態でしたが、どうなるんでしょうね。
スーパーまで閉店したら食料を調達する術がなくなりますね。
それともイオンあたりが頑張ってくれるでしょうか。
道を歩いていて襲われたりしたら怖いから、外出は必要最小限にして友人知人と連絡を取り合い、電波が通じるなら定期的に安否確認。
最後は静かにその時を待つ。
なんて思っていますが、そんなきれいに行くかな??
実際はその時にならないと分からないですね。
「終末のフール」を読んだ感想
一部を除いて登場人物に力強さを感じました。
あとがきに
伊坂氏は「どんな悲惨な状況であっても人はそれでも生きていく」ということを書きたかったと語っていた
『終末のフール』より
だそうです。
一番シュールだと思ったのは、やはり延長料金をちゃんとチェックしているビデオ屋の店長ですね。
自分が今生きている事自体が奇跡なのではと、少し考えてしまうような小説でした。
残りわずかだとしても、今できることをやるしかないという事なのかな。
SFというと少し私なんかは苦手分野で敬遠してしまうのですが、もっと早く手に取らなかった事を後悔しました。
老後にもう一度読みたい作品です。