人はここまで悪になりきれるのか?
人間存在の深部を襲う戦慄の恐怖
「黒い家」概要
著者:貴志祐介
第4回日本ホラー小説大賞受賞作
保険会社に勤務し、死亡保険金の査定をしている若槻。
上司の葛西と共にクレーム対応なども無難にこなしていく。
ある日、若槻指名でクレームが入り、会ったこともない菰田の家に行くこととなる。
そこで、小学生の男の子の首つり死体を発見してしまう。
登場人物
| <若槻慎二> 保険会社勤務。死亡保険金の査定を担当 小学校の時に兄が自殺している。 |
| <葛西好夫> 保険会社副長 若槻の隣の席におり、頼りになる上司。 |
| <三善茂> 潰し屋 保険の契約を解除させるプロ。 |
| <松井清> 京都府警の刑事。捜査一課 |
| <黒沢恵> 若槻の恋人。 大学の後輩で心理学を勉強中。 |
| <金石くん> 心理学の教授の助手 犯罪心理学を専門にやっている。 |
| <菰田重徳> 若槻を電話で呼び出した契約者 3000万円の終身保険に入っており、子供の和也は500万円の学資保険に入っている。 |
| <菰田幸子> 重徳の妻。45歳、再婚。 3000万円の終身保険に入っている。 |
| <大西光代> 主婦。元保険の営業員。 幸子の小学校の同級生。 |
若槻が殺人だと疑った理由
菰田家に呼び出された若槻は、菰田と一緒に子供部屋を覗きに行きます。
そこで菰田和也の自殺の第一発見者となってしまった若槻だが、これは事故や自殺ではなく他殺では?と思った理由が以下です。
- よく分からないクレームで名指しで呼び出された
- 異様な雰囲気で異臭を放つ、普通じゃない家の様子
- 菰田に子供部屋の襖を開けるよう、指示された事
- 子供が自殺したのに、子供ではなく若槻の様子を観察していた事
- その時、若槻と目が合うと目を逸らしたこと
- 死亡保険金の請求は社員が自宅まで取りに行くのが普通だが、菰田は郵送してきた。そのことに慣れた印象を受ける。
- 少し前に「自殺で保険金は出るのか」と電話で尋ねてきた声が、妻の幸子であること
これらの事から、若槻はこの子供は殺されたのではないかと、疑いを深めて自身で菰田の事を調べていくのだった。
若槻が発見したときの菰田の様子が下記です。
菰田重徳の目は、まったく子供を見てはいなかった。
「黒い家」より
何気ない文章ですが、前後の描写を読むと本当に怖かったです。
若槻の独自捜査で分かった事
菰田に不信感を持った若槻は自分で調べていくのだが、そこで菰田の周りでは次々と事件が起こっていることが発覚する。
- 菰田が元「指狩り族」であること。(保険金目当てでわざと手指を切断する人の事)
- 近所から気味悪がられていて、もめ事が絶えなかった事
- 菰田の幼少時代に、学校で飼育していた動物たちが連続して殺されていた
- 6年生の時に菰田が付きまとっていたクラスの女の子が一人行方不明になり池で亡くなっている
- 妻の幸子にも、多額の生命保険が掛けられている事
これらの事から疑いが確信に変わっていくのですが、警察の捜査がなかなか進まずイラつく若槻。
菰田からの精神的圧力
警察からの報告がなく保険金が下りない為、菰田から若槻に執拗なまでに圧力を掛けられます。
この辺りの描写が生々しくて、読んでいて恐怖を感じました。
自分なら、もう退職して逃げ出していると思います。
毎日会社にやってきて、何時間も若槻が戻ってくるのを待ち続ける重徳は、ただただ不気味としか言いようがありません。
上司の葛西が対応しようと助け舟をだしても、頑として若槻を指名します。
これでは若槻の精神が持たないですよね。
しかもこの嫌がらせは、とうとう若槻の自宅にまで及び、留守番電話に無言が30件。
当然、若槻の精神もかなり疲弊していきます。
この辺りの追い詰め方が本当に怖かったです。
若槻の味方たち
どんなサービス業でもそうですけど、良いお客ばかりではありません。
まして若槻は保険会社なので手ごわいお客が多いようです。
前半では菰田以外にも、何人かクレーマーや犯罪まがいの顧客がやってきます。
それを対応する若槻の味方たちが以下です。
葛西
若槻の上司
クレーマーにも慣れており対応してくれます。
菰田の対応に苦戦している若槻に、何度も助け舟を出してくれる頼もしい上司。
松井刑事
若槻に聞き取り調査した捜査一課の刑事。
鋭い眼光に若槻の証言にも素早く反応したことから、頼りになると思ったのだが・・・
三善
潰し屋。保険金目当ての顧客に対し、保険を解除させるその手のプロ。
関わりあいにはなりたくないが、いざという時は潰し屋に依頼することも。
恵
癒し系の恋人。心理学をやっているので犯罪心理に詳しい人物を紹介してもらう。
このように若槻には協力者たちがおり、あの手この手で菰田に対抗しようとするのですが・・・
「黒い家」を読んだ感想
途中までは精神的な怖さがあり、後半はちょっとグロかったです。
真っ先に思ったのは、保険会社では働きたくないなと思ってしまった。
最後のほうで書かれているのですが、日本は治安が良く、国民は真面目。
それを前提にしたシステムだと。
しかし、近年のモラルの崩壊につき、そのシステムに無理が生じてきていて、秩序が失われつつある社会を憂慮している。
もしかしたら著者が言いたかったのはこれなのかもしれない。
確かに保険金目当てに身内を殺害する人がいるなんて普通では考えられません。
しかし考えられないことが起こっている社会でもあります。
しかも最後のどんでん返しに、さらに続いていく恐怖。
一難去ってまた一難。
やたら保険会社の内情が生々しいと思ったら、著者の方が保険会社に勤務していたとプロフィールに書いてありました。
どうりでやたらリアルだと思った。
葛西や若槻は完全に被害者なわけですが、自分も職種は違うとはいえ、いつ何時こんな異常な人たちに絡まれるか分かったもんじゃない。
できれば永遠に関わることのないように願いたいです。
映画「黒い家」
1999年に映画化されています。
内野聖陽さん主演で幸子役は大竹しのぶさん。
映画「黒い家」を観た感想
主役の若槻は小説では恐怖に怯えながらも、割と強気な印象でしたが、映画の方では割と弱気な新入社員のようでした。
大竹しのぶの不気味さは半端じゃなかったです。
走り方まで気持ち悪くて異常者な雰囲気が出ていて、すごい女優さんだなと思った。
原作と違ったのは殺害方法が違いましたね。
でも十分おどろおどろしい感じは表現されてました。
ラストは原作の方がより不気味でした。