BOOK/本 小説 日本小説

小説「氷点」 三浦綾子

2024年6月13日

大雪山の雪よりも冷たく

人の心の

凍えるときがある・・・

「氷点」概要

著者:三浦綾子

本書は医者夫婦の娘が3歳で殺害されてしまい、妻への復讐として夫は犯人の子を養女として迎える。

我が子のように大切に可愛がっていた養女が、犯人のこと知り妻は・・・。

愛と罪と許しがテーマの超名作。

登場人物

<辻口啓造>
医者。学者肌で物静かで優しい。
28歳の時にルリ子が生まれる。
<辻口夏枝>
辻口の妻。26歳。院長婦人で結婚6年目。
父は内科医で啓造の恩師。長女のルリ子は3歳で殺害される。
<辻口徹>
辻口家の長男
<辻口陽子>
ルリ子を殺害した犯人の子
辻口家の養女となる。
<村井靖夫>
辻口病院の眼科医。28歳
夏枝に気がある。
<高木雄二郎>
産婦人科医。啓造の親友
乳児院で嘱託をしている。
<藤尾辰子>
夏枝の友人
資産家の一人娘で独身。
<佐石土雄>
農家生まれの不幸な生い立ち。
16歳でタコ部屋に売られる。ルリ子を殺害した犯人。
<北原>
徹と同じ寮に住んでいる学生。

誰の視点から見ても同情する点が多い

個人的には誰の気持ちも分かるのが辛い。

夏枝に浮気(というほどの物でもない気がしますが)されて復讐してやるという啓造の気持ちも分かります。

夏枝のお嬢様育ちゆえの、我儘で自己中心的な考えも嫌いですが、理解できる。

陽子を庇う徹と、夏枝を気遣う陽子の気持ちも、痛いほどわかる。

この小説は誰の目線で読んでも辛すぎです。

一番かわいそうなのは当然、何の罪もない陽子ですが、でも登場人物の中で一番好きなのは夏枝だったりします。

夏枝の性格

きっと退屈だったのだろうと思います。

設定的にはたいそう若く見えて美しいという設定です。

自分の美貌を持て余していたのでしょう。

夏枝の性格がよく表れている一文はいくつもあります。

以前は胸をときめかせた村井が、病気になり遠くへ何年も行ってしまいます。

久しぶりに会った村井は容貌が衰えていました。それを見た夏枝はガッカリするのです。

(でも、あの時の村井さんは、きたなかったのだもの仕方がないわ)
夏枝自身にしか通らない論理であった。夏枝はみにくい人間がきらいだった。生理的に受け付けなかった。みにくい人間をみると、自分の美貌が侵されるようで不安だった。

「氷点」より

なんか、すごくないですか。醜い人間を見ると自分の美貌が侵されるって・・・。

そんな事思ってみたいわ。

結構、後半でしたが、ある日テレビでこんなニュースが流れます。

2万円を盗まれた母親が子供を道連れに自殺したというニュースを見た夏枝がこういいます。

「自殺なんてわがままですわ。死ぬより辛いことはだれだってありますわ」

「氷点」より

医者の娘で何不自由なく暮らしてきた夏枝です。

この一文読んだとき、マリーアントワネットの「パンが無ければお菓子を食べればいいじゃない」を思い出してしまいました。

お金がない状況というのが夏枝には理解できなかったのでしょうが、さすがに啓造がたしなめました。

それなのに、陽子が自分より上のような立場になる可能性が出てくると激しく嫉妬します。

けれど決してそれを表には出しません。それどころからバレないかと冷や冷やしています。

人間の汚い部分を、美しい夏枝がひた隠ししている点が面白いと思いました。

後は自分の子供くらいの年の子を誘惑するシーンとかも、夏枝ならではと思いました。

うまく言えませんが、嫌悪感を伴う魅力みたいなのを感じました。

啓造の性格

元々は大変優しい男性なのだろうと思います。

ただ、随分と器が小さいです。

村井と妻が浮気しているかもしれないと思いつつも、それを問いただすことは決してしない。

そして変わり果てた村井を見たときに、妻の夏枝がガッカリしたのをチラッと見てほくそ笑む。

結構、器小さくないですか?

陽子を養女にしたことで、苦しい胸の内は痛いほど書かれていました。

今日こそは抱き上げてやろう。頭もなでてやろう。と思って帰っても、陽子を見ると反射的ににがい顔をした。

「氷点」より

陽子に対して罪悪感は感じつつも、やはり娘のルリ子を殺した男の子供という事で距離を置いてしまいます。

だったら初めから引き取らなければいいのに。陽子の立場になればたまったもんじゃありません。

ただ啓造が医者の仕事について語るシーンがあるんですが、これを読んで医者って大変なんだと思いました。

日頃誇りに思っていた医師としての仕事もむなしいものに思われた。新しい患者が来るー
しかし治しても治しても、新しい患者は絶えないのだ。サイの河原に石を積むようなむなしさがあった。

「氷点」より

一番面白かったところ

大人になった陽子に養女の話が出ます。

夏枝は陽子が嫌いでたまらないのですが、陽子が大学へ行き、自分よりも多くの財産を手にすることが許せません。

当然反対します。それは陽子を手放すのが嫌で反対するのではなく、陽子の幸せを阻止するためでした。

しかし陽子はそんなことは知りません。

夏枝が自分を手放したがらなかったことを素直に受け止めて喜びます。

家に居続ける事を喜んでいる陽子を見て、徹は自分と一緒にいるのが嬉しいのだと勘違いして喜びます。

陽子は夏枝を勘違い、徹は陽子に対し勘違い、そして周りはやはり夏枝は陽子を手放したくないんだなと勘違い。

物凄い勘違いワールドと化しています。

個人的にはここが一番面白かったです。

『氷点』を読んだ感想

どの登場人物も本当にひどかった。

主要な人物でまともなのは陽子、北原、辰子くらいじゃないでしょうか。

それでも私だけかもしれないですが、夏枝が結構お気に入りです。

多少なりとも人間が誰でも持っている暗い部分を、夏枝を通して見せられている気がしてしまいました。

本当に嫌悪感を感じるんですが、分かる部分も大いにありました。

養女の陽子は物凄く良い子です。夏枝には遠慮して良い子であろうと努力もします。

しかし、そうすればそうるほど夏枝は気に入らないのです。

この点も何となく私は分かる気がしてしまうんですよね。

懸賞小説ですが当選作のテーマが「人間の原罪」だそうで、ピッタリですね。

一番罪が重いと思ったのは、高木先生だと考えますが、どうでしょう。

※なおこのページにはプロモーションが含まれます

tag

-BOOK/本, 小説, 日本小説
-