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悲惨な運命を歩む少年「疾走」重松清

2023年6月16日

誰か一緒に生きてください-。

人とつながりたい。

ただそれだけを胸に煉獄の道を駆けぬけた一人の少年。

感動のクライマックスが待ち受ける現代の黙示録、ついに完結。

「疾走」概要

著者:重松清

両親と兄の4人暮らしの主人公。

平凡な一家が徐々に狂いだしていく、何とも言えないジワジワくる恐怖。

さらに干拓地にリゾート計画が持ち上がり、それに翻弄される街の人々。

そして決定打となる事件が起こり、一家はバラバラとなる。

そこからは少年の人生はさらに過酷さを増していき、とうとう街を出ていく少年。

しかし、その先にも安住の地はなく、どうしようもなくなっていく。

登場人物

<シュウジ>
主人公の中学生。
大工の父親と母親。成績優秀な兄の4人家族。
「浜」と呼ばれる集落に暮らしている。
<アカネ>
元住人のホステス。
今は「鬼ケン」と呼ばれている元暴力団と付き合っている。
<エリ>
シュウジの同級生。
両親は自殺。親戚の家に預けられている。
<宮原雄一>
町の教会の神父。
弟がいて暗い過去を背負っている。なにかとシュウジを気にかけてくれている。
<三好徹夫>
シュウジの同級生。
「みよし」というお好み焼き屋の息子
<新田>
ヤクザ。表向きは瀬戸リゾートピアの開発事業本部長。
アカネの内縁の夫。
<みゆき>
14歳の家で少女。
東京から大阪にやってきた。
<トクさん>
新聞屋で働く老人。
寮に入ったシュウジと同室になる。

上記以外には、シュウジをいじめる同級生や空気の読めない担任、リゾート開発に携わる人々などが登場します。

物悲しい雰囲気が舞台

何もない広々とした干拓地が舞台となっています。

そこには干拓地前にいる人が「浜」後に来た人が「沖」と言う事で若干対立しています。

「浜」の人間が「沖」の人間を見下げる差別的な一面もあります。

主人公のシュウジは「浜」の人間です。

そして同級生のエリは「沖」の人間。

そこへリゾート開発の話が持ち上がり、沖の人間は買収されて次々町を去っていきます。

結局このエリも悲惨な体験をして、諸事情でこの町を去っていくのですが・・・。

しかし、意地でも動かないのが教会で神父をやっている宮原雄一です。

この神父はいつもシュウジを気にかけてくれていて、自分の過去を話して弟に会わせます。

しかしこれは神父さんの失敗でした。

シュウジはそれ以降悩まされることとなります。

リゾート開発で盛り上がりを見せる町でしたが、地質調査で地盤沈下が見つかり一気に下降していきます。

町全体が寂れて行き、それがシュウジの人生とリンクしていくような感じで、どうしようもなくなっていきます。

シュウジの家族だけじゃなく、町の人や町全体も徐々に壊れていく感じが怖かったです。

土地の殺風景な雰囲気がさらに物語を悲しくさせています。

次々と襲ってくる不幸

とある事件をきっかけに、シュウジの日常は日常ではなくなります。

学校ではいじめられ、家に帰ると借金の取り立てです。

頼みの両親もあてにできず、親戚からは突き放されて、行くところもありません。

10代の少年にとっては荷が重すぎます。

働こうにもまだ若く、まともなところでは雇ってもらう事も出来ません。

やっと、かろうじて住み込みの職を見つけます。

大阪で新聞屋で寮生活を始めます。

しかし15歳の子を何も聞かず雇い入れるなんて、まともなところな訳がないです。

案の定、寮費や食費や、果ては自転車のレンタル料まで引かれて、散々な目に遭います。

初めての給料をもらう時のシュウジは

初めての給料は、いまの計算なら手取りで4万円。自転車は買わない。ナイフを買おう、と決めた。

もうこの一文でまともな生活を送っておらず、精神的にも相当追い詰められているというのが、はっきりとわかります。

この時トクさんという老人と同じ部屋になるのですが、このトクさんも最低な人間で、ここでもシュウジは辛苦を味わいます。

この世に神はいないのかと思ってしまうような小説です。

シュウジの周りの人間

ハッキリ言ってロクでもない人間が多すぎです。

新田なんて単なる狂人です。

一番嫌いだったのは徹夫とアカネ。

アカネは多分根は良い人なんだと思います。

シュウジを可愛がるのですが、アカネと出会わなければあんな事にならなかったのではないかと思います。

しかも、弱みを握られているのか、薬でもやってるのか、暴力で支配されているのか分かりませんが、新田にずっと服従しているのが嫌でした。

徹夫は言わずもがな。

手のひら返しが嫌でしたね。

イジメも陰湿なシーンが多く読むのが辛かったです。

シュウジは最後に徹夫から借りていたお金を返しに行きます。

なんでそんな事するんだろうと思ったけど、徹夫を友人だと思い込みたかったから?

1つくらい人間らしいことがしたかったんじゃないでしょうか。

これもそう思うと悲しいですね。

登場人物の中で一番好きだったのはエリ。

クラスメイトや教師にひるむ事もなく、シュウジに同情するでもなく、本当に強くてカッコいい女の子でした。

シュウジも結構強い子でしたが、エリの強さや明るさに救われていた面もあります。

救いはあったのか

文中に聖書が頻繁に登場しますが、救いはあったのか。

個人的にはシュウジには何の救いもなかったと思います。

次々と襲ってくる不幸と、どうしようもない環境。

アカネやエリ、みゆき、神父さんの優しさはあったものの、うまく受け取ることが出来なかった。

ただ、シュウジの残したものや、思いなんかには救いはあったかもしれない。

ラストは少し暖かいラストでした。

どうかこの暖かい感じがずっと続くように願うばかりです。

「疾走」を読んだ感想

重松清さんが好きなのですが、読み終わった後の後味の悪い小説でよく名前があがっていたので、なかなか手を出せませんでした。

重松さんというと、家族間のほんわかした少し感動するような話が多く、私もそういう話ばかり読んできました。

そして小説の中でシュウジはずっとお前と呼ばれ続けます。

これは一体誰の声なのか、分かるまで地獄からの呼び声のような語り手がさらに不気味でした。

読み進めるのが本当に辛かった。

けど、最後を見届けたい思いが強く、割と一気に読みました。

表紙も不気味ですが、読み終わった後だと表紙なんて可愛いもんです。

それくらいエゲつなかった。

実在しない架空の人物、作り話の小説なのに、読み終わった後に手を合わせたくなりました。

そんな小説です。

読み終わって1週間もすると内容を忘れてしまうような小説もあるけれど、この小説は多分一生覚えていると思う。

ただ、もう一度読もうとは私は思わない。辛すぎる。

テレビドラマ化

2005年に映画化されています。

主演が手越祐也さん。イメージが随分と違うな・・・。

レビューを見ると原作が凄すぎてイマイチという意見と、手越くんの演技が意外にも良かったという意見と分かれています。

観たいような観たくないような・・・。

動画配信サービスで配信されたら見ようかな。

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