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ネグレクトが題材「両手にトカレフ」ブレイディみかこ

2024年9月21日

私たちの世界は、

ここから始まる。

「両手にトカレフ」概要

著者:ブレイディみかこ

薬物中毒で育児を全くしない母親の元で暮らすミアとチャーリー。

いつも生活困窮者に食事を提供しているカフェでお腹を満たしている。

ある日、一人の男性から金子フミコという女性の本を勧められ、読み始めるミア。

そこには壮絶なまでの生い立ちが綴られていて、自分の境遇と重ね合わせる。

母親の症状は徐々に酷くなっていくが、弟と離れるのが嫌でソーシャルワーカーを拒むミア。

そこに、友人のイーヴィやその母親のゾーイ、同級生のウィルなどが絡んでくる。

「両手にトカレフ」とはウィルが作ったラップの曲のタイトルになる。

登場人物

ミア

14歳の中学生。

ネグレクトの母に代わり、弟の面倒を見ていて

弟と離れてしまう事を何よりも恐れている。

チャーリー

8歳。ミアの弟。

貧乏なため、学校ではいじめられている。

ミアの母

生活保護でドラッグをやっている。

育児はせず、若い男を常に連れ込む。

イーヴィ

ミアの友人だが少し距離を置いている。

母親がミアばかり心配するので、少し嫉妬している。

ゾーイ

イーヴィの実母。シングルマザー。

ミアたち姉弟を心配している。

ウィル

ミアのクラスメイトで、派手なグループに属し家は裕福。

ラップをやっていて、ミアを誘う。

レイチェル

ミアたちの新しいソーシャルワーカー。

自身も子供の頃苦労しており、施設育ち。

フミコ

無籍者。ミアの読んでいる本の登場人物で実在の人物。

壮絶な生い立ちが語られている。

「両手にトカレフ」ポイント

ネグレクトが題材ですが

実在の人物・金子文子の「何が私をこうさせたか」からの引用がほとんどでした。

似て非なるミアとイーヴィ

ミアとイーヴィは、どちらも貧困で母子家庭という設定です。

ここだけ聞くと同じような境遇なのかと思いますが全く違います。

どちらも貧しいのですが、イーヴィの母親は子供を愛しており、自分の出来る範囲で精一杯子育てをします。

一方のミアの母親は生活保護をドラッグに使い、完全に育児放棄。

子供たちがお腹を空かせていようと、考える事すら出来ない状態です。

そんな母親に代わり、弟の学校の送り迎えをするミア。

いわゆるヤングケアラーとなっており、お腹がすくとボランティアが運営している『カウリーズ・カフェ』に行き食事を貰うのです。

そこではイーヴィの母親ゾーイがボランティアで働いていました。

ミアは過去にゾーイにこう頼んだことがあるのです。

「私とチャーリーもここに来て、一緒に住んでもいい?私たちをあなたの子供にしてください」

『両手にトカレフ』より

小学校5年生の時の出来事でした。

もちろんゾーイも貧しい生活です。

イーヴィのこともあるし、簡単に引き取ることはできませんでした。

同じ貧しい母子家庭でも環境は全く違ったのです。

ミアとフミコ

ある人に勧められた本を読み始めるミア。

そこには金子文子という女性の、壮絶な生い立ちが綴られていました。

自分の境遇と重なり共感するミアでした。

隣に座っているレイラや、この教室に座っている誰よりも、その本に出てくる少女のほうがミアには近く感じられた

『両手にトカレフ』より

自分と似たような境遇の人に共感してしまうこの感情は何という名称なんだろう。

フミコは途中で親せき宅に引き取られていくのですが、それを読むとミアはがっかりするのです。

なんだ親戚がいたならいいじゃないか。

共感していた人が幸せそうになりかけると興味を失ってしまう。

この辺りの心理描写が本当に上手でミアの気持ちに心が痛くなりました。

ウィルの存在

イーヴィやゾーイに比べると存在感が薄いかと思ったのですが、重要な人物です。

ミアが家を出たときに周りは心配してたくさんメッセージを送ってきます。

しかしウィルは知ってか知らずか、ミアに呑気にラップを一緒にやろうよと日常と変わらないメッセージを送ってきました。

このゆるい雰囲気に緊張を強いられていたミアは、ふと緊張がほぐれるのでした。

ウィルは裕福な家庭でミアとは全く別世界と位置付けられてますが、ミアにとっては重要な人物だと思います。

状況にそぐわない平和なメッセージが間抜けな感じで、ミアは鼻からふっと息を漏らした。

『両手にトカレフ』より

ゆるさに救われるっていうのはあるのかなって思います。

「両手にトカレフ」を読んだ感想

ほとんどフミコの物語の引用で、なんかちょっとなあ・・・って思います。

ミアとフミコの物語が順番に交差します。

ちょっと二人の物語の入れ替わりが激しすぎて、もう少し先を読みたいというところでミアに戻ったりして、少しもどかしさがありました。

ミアが弟の面倒を異常なほどに見て心配しているのにはちゃんと理由がありました。

そういう事かと納得しますが、ちょっと設定がイマイチの印象は受けました。

ミアよりもフミコの方が壮絶すぎて、そっちが気になってしまった。

途中で検索したら実在の人物という事で驚きました。

最後のフミコの心情とミアの心情が重なったところはさすがという感じですが、ラストは少し都合が良すぎると思いました。

随分ときれいに収まったなと。

それにしても金子文子って獄中で自殺(不確定らしいですが)とは・・・やり切れない気分です。

表紙は可愛いけれど、胸が痛くなるような内容でした。

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